2011年のゴールデンウィークはドイツに滞在し、映画「哲学への権利」の上映を4か所で企画している。東のベルリンから西のボッフムまで連日ドイツを横断しながら、4つの大学で上映・討論をおこなう。共同研究者である斉藤渉氏(大阪大学)と大河内泰樹氏(一橋大学)が同行している。

(「ユダヤ人犠牲者記念館」――ブランデンブルク門付近に設立された2711本のコンクリート製のブロックのモニュメント。ブロックの高さと床面が不揃いなので、歩行すると不安定な気分になり、断続的で不均衡な時空の感覚を覚える。地下にはホロコーストの史実を解説した展示室がある。モニュメントは犠牲者追悼のためのものだが、極度に重々しい雰囲気はなく、市民がブロックの上で談笑している姿もみられる。)

(「ユダヤ博物館」――ダニエル・リベスキンドの建築で知られる、2001年開設の博物館。「ホロコーストの軸」「亡命の軸」「持続の軸」と呼ばれる地下通路で構成されており、「空虚(Void)」と呼ばれる空っぽの空間が建物の随所を貫く。この「空虚」は大虐殺がもたらしたユダヤ人の空白を表現する。とりわけ、「記憶の空虚」と呼ばれる場所に設置された彫刻家メナシェ・カディシュマンのインスタレーション「落ち葉」が圧巻。)

(左・フィヒテ、右・ヘーゲルの墓石)

フンボルト大学は、教育改革者・言語学者ヴィルヘルム・フォン・フンボルトによって1810年に設立された近代の代表的な大学。「研究と教育の統一」や「大学の孤独と自由」といったフンボルト理念が、近代的大学の理念として伝播したとされる。5月2日の映画ホールでの上映会には、若きフンボルト研究者マーカス・メスリング(Markus Messling, ポツダム大学)が登壇し、40人ほどが参加した(企画運営・今崎高秀)。

(マルクスのフォイエルバッハ・テーゼ「哲学者たちは世界をさまざまに解釈してきただけである。肝心なのは世界を変革することである」が刻まれた中央階段。)

マーカス・メスリングのコメントは示唆的だった。ドイツではハーバーマスの批判もあってフランス現代思想は過小評価されており、90年代になってやっとポストモダン思想という括りで正当に受容され始めた。フランス現代思想は政治的な含意を込めて解釈されることが多いが、本映画にはデリダを脱政治的に理解する可能性があるのではないか。また、本映画にはデリダやその時代に対するメランコリーが漂っている。それは監督・西山自身のメランコリーでもあるだろう。デリダに影響を受けたメスリング氏自身もまた、このメランコリーを共有している。偉大な哲学者がもういない、というメランコリーから何を自覚的に学ぶべきだろうか。いかに抵抗すべきだろか。このメランコリーへの抵抗を試みない限り、次世代の哲学への希望はないだろう。

(メスリング、西山、大河内、斉藤)
ドイツでの最初の上映が無事に終わり、18人ほどで懇親会が盛り上がった。翌朝からライツィッヒに移動し、連日の巡回上映が始まる。
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