「フランスとは大きく異なり、日本には広場がない」――2月に対談した池澤夏樹さんの印象的な言葉だ。フランスではいたるところに広場や教会があり、即席の市場を設けるために歩道は広い。人々が集い、言葉を交わし、日常とは異なる緩やかな時間が流れる空間がある。公共性の充実とは、社会のなかでそうした時空間が残されていることを言うのだろう。


今回の滞在で印象的だったのは、パリ市役所前の広場で市役所の警備員たちがデモをおこなっている場面だ。改革によって、警備員の待遇(給与減額、有給休暇の日数削減など)が改悪されるという。このことに抗議して、市議会が開催されている時間にデモをしている。デモと言っても、勇ましい戦闘的な雰囲気はない。ただ、警備員が一堂に会して、おしゃべりをしているばかりで、時折「ピー!ピー!ピー!」と仕事道具の笛を鳴らして気勢を上げる。非常に緩やかなデモである。また、警備員がデモをしているあいだ、市役所の警備はなく、警察が代わりに警備にあたっていた点はユーモラスだった。



(デモは数時間続くのでお腹が減る。労働組合が即席の店を出し、コーヒーやサンドイッチを安価でふるまっていた。)
フランスには日本のような居酒屋はない。気心の知れた仲間と安価で歓談するためにフランス人は誰かの家に集まることが多い。いわゆる、fête(フェット)だ。Fêteには「祝日、パーティー、楽しみ、陽気さ」という意味がある。今回も滞在先のアパートに日本人留学生を招待し、14人ほどでフェットをおこなった。どうでもいい話題から最先端の研究動向まで話は多岐に及ぶ。ただ、こうした緩やかな交流こそが学びの場となり、研究活動の思わぬ糧になるのだ。

(アパートでのフェット)

(日本人・韓国人留学生の懇親会)
社会の緩やかな空間で人が集まって、穏やかな時間を過ごすこと――「フランスとは大きく異なり、日本には広場がない」という言葉の重さを再確認した。
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